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千葉地方裁判所 平成4年(ワ)1250号 判決

原告

有限会社エミ・コーポレーション

右代表者代表取締役

大澤惠美

右訴訟代理人弁護士

稲田耕一郎

被告

株式会社ほっかほっか亭千葉事業本部

右代表者代表取締役

染谷博

右訴訟代理人弁護士

髙田昌男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及び本訴状送達の翌日である平成四年八月一五日から支払い済みに至るまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同趣旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、喫茶店の経営並びに弁当の製造及び販売等を目的とする有限会社である。

被告は、ほっかほっか亭の名称で持ち帰り弁当の販売店の事業を全国的に展開しているフランチャイズ組織の千葉地区の事業本部であり、弁当の製造販売及び弁当の仕出し等を目的とする株式会社である。

2  フランチャイズ契約の締結

原告と被告は、昭和六三年三月一六日、原告がフランチャイジーとして被告のフランチャイズ組織へ加盟し、千葉市稲毛区稲毛三丁目六番七号長喜ビル(以下「本件店舗」という。)においてほっかほっか亭の名称で持ち帰り弁当の販売を行う契約を締結した(以下「本件契約」という。)。

3  被告の保護義務違反

(一) 契約締結段階における保護義務違反

(1) 保護義務の存在

フランチャイズ契約においては、フランチャイジーは、事業活動を行うに際してフランチャイザーの指導に従うことが要求されており、契約期間中に店舗の売却を自由に行うことができず、フランチャイズ契約に違反した場合は過大な違約金が課される仕組みとなっている。このように、フランチャイザーはフランチャイジーに対し契約上有利な地位にある。

したがって、フランチャイザーは、契約を締結する際、フランチャイジーとなろうとする者に対し、当該フランチャイズシステムにおいて当該立地条件の下で当該店舗を出店することができるかどうかについて、客観的かつ適正な情報を提供する義務を負っている。

(2) 本件契約締結の経緯

① 原告代表者は、横浜市において原告名でレストランを経営していたが、右経営をやめて、昭和六三年、千葉市へ転居した。原告代表者は、比較的小さい資本によって始めることができ、しかもリスクを最小限に食い止めることのできるような事業を探し、持ち帰り弁当の販売のフランチャイズへの加盟が右条件に合うのではないかと考えて、同年二月頃被告を訪問した。

② 被告は、原告に対し、被告のフランチャイズへの加盟が事業として成功可能性の高いものであることを、それまでの成功事例を交えて説明した。原告は、右説明を聞いて魅力を感じたが、千葉方面の土地柄については不案内であったことから、被告のアドバイスを受けながら候補地の検討を始めることとした。原告は、被告に対し、習志野市鷺沼、千葉市蘇我及び本件店舗の各貸店舗について意見を求めたところ、被告は、前二者についてはそれぞれ問題があるが、本件店舗についてはかなりの収益が望めると回答した。そこで、原告は、被告に対し、本件店舗についての調査を依頼したところ、調査の結果は、一日一〇万円、月三〇〇万円の売上が望めるというものであった。

③ 他方、原告は、本件店舗の周辺について「寂れた町」という印象を受け、また、本件店舗の前は、道幅が狭いにもかかわらず大型バスが往来するため安心して駐車することができない点を不安に思い、被告に尋ねたところ、被告代表者染谷博は「必ずしも一流の場所でなくても売れてしまうのがこの商売の利点であるので、心配ない。」と述べ、さらに、「これまで開店させた店は予想より一割か二割多い売上を上げている。本部の出した数字は、これまでの実績からして大幅な間違いはない。」と確信に満ちた態度で述べた。そこで、原告は、被告の話を信じて本件店舗での営業を決意し、昭和六三年三月一六日、本件契約を締結した。

(3) 被告の保護義務違反

右のとおり、被告は、原告に対し、独自の調査に基づいた結果として本件店舗の売上予測について一日一〇万円、月三〇〇万円という情報を提供したが、右調査は、本件店舗の客層に車での利用客が多かったことを看過し、商圏となる範囲を正しく把握せず、また、持ち帰り弁当店にとって意味のある町の特質を考慮せずに行われた極めて根拠の薄弱なものであった。したがって、右調査に基づく本件店舗の売上予測は、全くの検討はずれであり、損益分岐点の算出及び費用の計上等もずさんであり、客観的かつ適正な情報といえないものであった。そして、実際に営業を始めると、売上は本部の予測した数字を著しく下回り、赤字が続いた。

以上のように、被告は、原告に対し、フランチャイズ契約を締結する段階において客観的かつ適正な情報を提供する義務に違反したものであり、右のような過大な売上予測等をあたかも間違いのない数値であるかのように原告に示して原告に本件契約を締結させたものである。

(4) 損害合計一四一五万〇一九五円

被告が客観的かつ適正な情報を提供しなかったため、原告は契約を締結し、開業にふみ切ったものであり、以下のような各費用を支出した。したがって、原告は、被告に対し、契約締結段階における保護義務違反に基づいて一四一五万〇一九五円の損害賠償請求権を有する。

① 本件店舗を取得するために支出した費用 一二二万五〇〇〇円

敷金 六六万〇〇〇〇円

礼金 三三万〇〇〇〇円

仲介手数料 一一万〇〇〇〇円

四月分家賃等一二万五〇〇〇円

② 内外装費用(後記張り出しガラス費用一三四万六〇〇〇円を含む)

六八九万〇〇〇〇円

③ 厨房費用 二二八万〇〇〇〇円

④ 開店時販売促進費用

三〇万〇〇〇〇円

⑤ 小物類・レジ等備品費用

一四九万四九四二円

⑥ 開店用食材仕入費用

七二万二五一〇円

⑦ ほっかほっか亭契約金

八〇万〇〇〇〇円

⑧ 諸雑費 四三万七七四三円

(二) 契約履行過程における保護義務違反

(1) 保護義務の存在

フランチャイザーは、契約締結後においても、フランチャイジーの店舗の立地条件、従業員数、営業の規模及び営業状況等に応じて効率的な投下資本がなされるように、客観的かつ適正な情報を提供し、指導する義務を負っている。

(2) 右のような保護義務が存在するにもかかわらず、被告は、次の①及び②のように右の義務を怠った。

① 張り出しガラスの設置について

被告は、原告に対し、集客力を多くするためには店頭にガラス部分を張り出し、少しでも広いスペースを確保した方がよいと指導した。そこで、原告は、右指導に従って、店舗の構成を行った。

しかし、本件店舗の前の道路は、道幅が狭く駐車しにくいという難点があり、これをカバーするには、ガラス部分を張り出さずに駐車スペースとして確保した方がはるかに有効であった。本件店舗は、その立地条件からして、車で来店する顧客に対する営業を拡大しなければ営業の存続が見込めなかったことからすると、被告の右指導は極めて不適切なものであった。

② 従業員経費について

ア 被告は、原告に対し、売上を向上させるためには、従業員のサービスをよくすることが必要であり、従業員経費を多めにかけるようにと当初から指導した。また、開店後二か月経っても売上が被告の予想を下回ったことから、原告が懸念を表明したところ、被告は「売上は必ず伸びる。」と言い、引き続き従業員経費を多めに計上するように指導した。そこで、原告は、右指導に従って従業員経費を計上した。

イ しかし、その後も一向に売上は向上せず、原告は、被告の指導に従って従業員経費を計上していたのでは営業が成り立たないと判断し、開店から一〇か月程経った頃から、従業員の数を漸次減らし、その費用を大幅に削った。

(3) 損害 合計二三四万六〇〇〇円

① 被告が客観的かつ適正な情報を提供し、指導しなかったため、原告は、張り出しガラス設置費用として一三四万六〇〇〇円を無駄に支出させられた。

② 被告が従業員経費に関する適切な指導を怠ったため、原告は、売上に見合わない経費を無駄に支出させられた。右支出の額は、金一〇〇万円を下らない。

したがって、原告は、被告に対し、契約履行過程における保護義務違反に基づき二三四万六〇〇〇円の損害賠償請求権を有する。

4  被告の買取約定違反

(一) 買取の合意の成立と被告の不履行

原告は、平成四年一月下旬頃、被告の従業員である佐藤に対し「本件店舗を閉店したい。」と伝えたところ、同人は、原告に対し「閉店は、しばらく待ってほしい。被告の側で転売先を見つけることもできるし、転売先を見つけることができない場合は、被告が本件店舗を買い取って直営にする。被告が買い取る場合の価格は、平均月間売上の1.5倍である。」と言った。したがって、原告と被告との間において、被告が転売先を見つけることができない場合には、平均月間売上の1.5倍の価格で被告が本件店舗を買い取る旨の合意が成立した。

しかし、佐藤は、三月一八日になって突然原告に対し、転売先はなく、被告が買い取ることもできないと伝えてきた。

(二) 損害

右のとおり、原告と被告の間には本件店舗の買取の合意が成立したものであるから、被告は、右合意にしたがって本件店舗を買い取る義務を負っている。本件店舗の月間平均売上は、二四〇万円であり、その1.5倍である三六〇万円が本件店舗の買取価格である。したがって、原告は、被告に対し、本件買取約定に基づいて、三六〇万円の損害賠償請求権を有する。

5  よって、原告は、被告に対し、契約締結における保護義務違反に基づく損害賠償請求として一四一五万〇一九五円、契約履行過程における保護義務違反に基づく損害賠償請求として二三四万六〇〇〇円、買取約定違反に基づく損害賠償請求として三六〇万円の損害金合計一八七五万〇一九五円(張り出しガラス設置費用一三四万六〇〇〇円は、契約締結における保護義務違反に基づく損害賠償請求と契約履行過程における保護義務違反に基づく損害賠償請求において重複して請求されているので、合計額からは右金額を差し引いた。)のうちの一部請求として五〇〇万円の支払い及びこれに対する本訴状送達の翌日である平成四年八月一五日から支払い済みに至るまで商法所定の年六分の遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1(当事者)の事実は認める。

2  請求原因2(フランチャイズ契約の締結)の事実は認める。

3  請求原因3(保護義務違反)について

(一) 請求原因3(一)(契約締結段階における保護義務違反)

(1) 請求原因3(一)(1)(保護義務の存在)の主張は争う。

原告は、以前に喫茶店及びレストランを経営したことがあり、飲食店の経営について十分な知識を有していたこと、フランチャイズシステムとして有名なレストラン「イタリアントマト」を経営し又は経営しようとしてフランチャイズシステムを研究したことがあること及び被告からもフランチャイズシステムについて十分な説明を受けたことからすると、原告と被告との間において、被告が特別に原告の契約締結に関する判断を誤らせることのないように注意すべき保護義務を負う立場にあるということはできない。

(2) 請求原因3(一)(2)の事実のうち、

① 同①の事実は知らない。

② 同②の事実は認める。

③ 同③の事実のうち、原告が不安に思ったとの事実は知らない。本件契約が締結された事実は認め、その余の事実は否認する。

被告が算出した売上予測の数値は、フランチャイジーがフランチャイザーの指導、助言に従い、経営に専念すればそのような成果をあげる可能性があるという予測値であって、同じ実績をあげることを保証するものではない。

(3) 請求原因3(一)(3)(被告の保護義務違反)のうち、売上が本部の予想した数字を下回ったとの事実を認め、調査の内容が原告の主張のようなものであったとの事実は否認し、その余の主張は争う。

被告が前記保護義務を負うことがあるとしても、被告は、原告が本件店舗を出店するに際し、一応の合理的方法に基づき、被告なりの方法で所要の調査を実施した上、統計上及び経営のノウハウに基づく数値によって売上予測を算出したものであり、ことさらに不注意に通常と異なる不適切な調査をしたことはなく、右保護義務を怠ってはいない。

(4) 請求原因3(一)(4)(損害)の主張は争う。

(二) 請求原因3(二)(契約履行過程における保護義務違反)

(1) 請求原因3(二)(1)(保護義務の存在)の主張は争う。

フランチャイザーとフランチャイジーは、それぞれ独立した事業を行うものであって、フランチャイジーは、フランチャイザーの代理人でも使用人でもない。すなわち、フランチャイジーの営業は、その名義と計算により行われ、その独自の判断で従業員を雇用する等使用主として全ての権利を有し、義務を負う。したがって、原告の主張する張り出しガラスの設置及び従業員経費の計上は、原告自らが全て自己の判断と計算において行い、その損失も負担すべきものである。

(2) 請求原因3(二)(2)の事実のうち、

① 同①の事実のうち、被告が原告に対し店頭にガラス部分を張り出した方がよいと指導したことは認め、その余の事実は否認ないし争う。

② 同②の事実のうち、アは否認し、イは知らない。

(3) 請求原因3(二)(3)(損害)の主張は争う。

4  請求原因4(買取約定違反)

(一) 請求原因4(一)(買取合意の成立と被告の不履行)の事実のうち、原告が平成四年一月下旬頃、閉店したいと申し入れ、被告がそれを了承したことは認め、その余の事実は否認する。

原告の主張は、物理的存在としての店舗の売却(設備及び賃借権の売却)と本件契約上の地位の移転を混同するものである。すなわち、前者については被告は反対することができず、他方、後者については本件契約によって被告の承諾が要求されていることは明らかである。

(二) 請求原因4(二)(損害)の主張は争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  当事者

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  フランチャイズ契約(本件契約)の締結

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三  被告の保護義務違反(請求原因3)について

1  契約締結段階における保護義務違反(請求原因3(一))について

(一)  本件契約締結に至る経過

甲第一ないし第九号証、第一五、第一七、第一八ないし第二三号証、乙第一、第二、第三号証の一ないし一〇、第四ないし第七号証、証人稲井潤の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 被告は、持ち帰り弁当のフランチャイズ組織ほっかほっか亭の千葉事業本部であるが、昭和五四年一〇月に千葉一号店を開業し、昭和六三年当時、千葉県下において七〇店舗のフランチャイズチェーン店を有し、年間売上高は二六億四〇〇〇万円であった。

(2) 原告代表者は、横浜市において約一二年間レストラン及び喫茶店の経営をしていたが、習志野市の住宅・都市整備公団の分譲マンションの抽選に当選したことと、何か新しい商売を始めたいと思っていたことから、所有していた自宅と店を売却して、昭和六二年一二月習志野市へ転居した。原告代表者は、千葉の地の利が分からず、どのような場所でどのような商売をするのがよいか分からなかったので、比較的小資本ですみリスクの少ない商売をしたいと考え、持ち帰り弁当店のフランチャイズチェーンへの加盟を検討した。

なお、原告代表者は、かつて横浜にいた頃、イタリアントマトのフランチャイズチェーンに加盟することを考えたが、詳しく検討するまでもなくとりやめたことがあった。

(3) 原告代表者は、昭和六三年二月一二日頃、被告に対し、電話で被告のフランチャイズチェーンの活動状況や加盟条件等について問い合わせた。このときは、被告の営業統括部長稲井潤(以下「稲井部長」という。)が電話にでて、一般的な事項を説明した。そして、具体的な事項については後日面談の上説明されることになった。

(4) 原告代表者及び原告の取締役小坂夏雄(以下「小坂取締役」という。)は、二月一五日、被告を訪れた。原告代表者は、稲井部長に対し、自己紹介をして最近習志野市谷津へ転居してきたこと、それ以前は横浜でレストラン及び喫茶店を経営していたこと等を述べた。稲井部長は、原告代表者らに対し、被告の事業規模、事業内容及び成功例等を説明し、持ち帰り弁当製造販売業の特徴として、投下資本が比較的小額ですむこと、売上金の回収リスクが少ないこと、季節変動要因などが少なく経営上の見通しがたてやすいこと、労働力をパートタイマーでまかなえること及び営業数値を管理することにより利益を確保しやすいシステムになっていること等を挙げ、また、標準的投資金額として一四〇〇万円ないし一五〇〇万円の資金を要すること等を説明した。

右の説明の際に、原告代表者が被告の店舗を見学したいと申し入れたので、稲井部長は、翌二月一六日、原告代表者及び小坂取締役を被告の直営店である浦安旭店に案内した。稲井部長は、原告代表者らに同店のレジスターの点検レシートを示してその時の売上を確認させるなどした。

次いで、稲井部長は、二月一八日、原告代表者及び小坂取締役を銚子一号店に案内した。右銚子一号店は、昭和六二年一一月一二日に開店したばかりで、ガラス張りのフロント客溜まりを設けカラーリングを施した店舗であった。

(5) 二月二三日、被告の代表取締役社長である染谷博(以下「染谷社長」という。)及び稲井部長が原告代表者及び小坂取締役と面談した。

このとき、染谷社長は、原告代表者らに対し、フランチャイジーの権利と義務について説明し、フランチャイザーとフランチャイジーはそれぞれ独立した事業体であるという認識をもってほしいと要請した。

同日、原告代表者は、被告のフランチャイズチェーンへ加盟するための申込手続を取り、被告に対し申込金二〇万円を預けた。この加盟申込手続は、物件の情報を提供したり、立地条件に関する調査等の具体的行動を起こす前に、加盟しようとする者の意思を確認するためのステップであり、申込金は、適当な物件が見つからなかったり、加盟しようとする者の意思が変わった場合は全額を返却し、フランチャイズ契約成立に至った場合は加盟金の一部に繰り入れることになっていた。

(6) 原告の加盟申込を受けて、稲井部長は、船橋市、習志野市及び千葉市を中心に不動産仲介業者の情報を集め、現地へ出向き、貸店舗物件を探した。稲井部長は、原告に対し、船橋市内の店舗を紹介したが、立地及び資金条件が合わなかったため、見送られた。

他方、原告も原告代表者と小坂取締役が貸店舗の情報収集にあたり、被告に対し、千葉市蘇我や習志野市鷺沼の店舗情報を持ち込んだ。稲井部長が右各店舗を調査したところ、習志野市鷺沼の物件は、二月二五日に加盟契約を締結した津田沼一号店と商圏が競合することが分かり、千葉市蘇我の物件は、幹線道路沿いの店のため売上が上昇して軌道に乗るまでに半年から一年の期間がかかると予測され、原告が最初に経営する店としては危険が大きいことが分かった。稲井部長は、これらの調査結果を原告に伝えた。

さらに、原告は、原告代表者と小坂取締役が千葉市内を中心に不動産屋の紹介物件を見て回った結果本件店舗を見つけ、坪数、家賃等の賃貸条件を調べた上で、二月二九日、被告に対し、立地条件等について調査を依頼した。染谷社長及び稲井部長は、本件店舗について「なかなかよい物件である。自分たちが何十年間か培ってきたノウハウやその他のいろいろな面で総合的にみると、まず間違いない。勘としてはすごくいい。」等と言った。原告代表者としては、周辺が寂れた町であるとの印象を持ったが、同時に、駅が近く賃貸料等が安かったのでよい物件だと考えた。

(7) 稲井部長は、三月一日から三日までの間に本件店舗周辺の現地を確認し、四日から七日までの間に市場調査を行い、第一次商圏(別紙「被告による市場調査結果及び損益予測」(以下「別紙」という。)の①エ参照)となると予測した地域(稲毛一丁目、同二丁目、同三丁目、稲毛町五丁目の一部、稲毛東二丁目、同五丁目等)の住宅、事業所、コンビニエンスストア等食料品販売店や飲食店の状況を調べた。飲食店のうちの何店かについては、稲井部長自らが客となって飲食することにより、競合店舗の規模、プライスゾーン、メニュー戦略のポイント、サービス状況等を調査した。さらに、稲井部長は、三月八日、本件店舗の家主である並木酒店の店主(以下「並木酒店」という。)と直接面会するとともに、本件店舗の内部を下見調査し、多少狭いこと、間取りが変形的であること等のマイナス要素はあるものの、店舗として設計できるとの見通しを確認した。

稲井部長は、このようにして行った調査結果と統計上の数値等を合わせて、売上予測値を算定し、他方、店舗の賃貸条件を含めた投資額とのバランスを勘案した結果、事業として成立し得るとの判断を下し、さらに、染谷社長とも検討し、右判断を被告の見解とした。

稲井部長による市場調査結果と公刊されている各種統計を基に算出した被告の予測数値等及びその根拠は別紙のとおりであるが、これによると、開業後は毎月約三〇〇万円の売上が見込まれるとされ、開業後三年間の損益予測は次のとおりであった。〈編集部注:下段〉

(8) 稲井部長は、三月一〇日、原告代表者及び小坂取締役に対し、前記市場調査の結果を報告した。

稲井部長は、売上予測値を原告に伝えるに際し、「これは我々の過去に出店した店舗の実績に基づいて割り出した数値であって、努力すれば獲得可能な数値である。」という説明をした。

売上高

総費用

利益

返済予定

初年度

三五九四万円

三二一八万

八〇〇〇円

三七五万

二〇〇〇円

一四二万

八〇〇〇円

第二年度

三九五三万

四〇〇〇円

三四六四万

三〇〇〇円

四八九万

一〇〇〇円

一四二万

八〇〇〇円

第三年度

四一五〇万

九〇〇〇円

三六一五万

九〇〇〇円

五三五万円

一四二万

八〇〇〇円

さらに、被告は、三月一一日、被告事務所において、原告代表者及び小坂取締役に対し、市場調査報告書(甲第六号証)、損益予算表(甲第七号証)、事業計画書(甲第八号証)及び返済計画書(甲第九号証)を渡すとともに、事業の可能性について説明し、「我々の商売は必ずしも一流の場所でなくてもよい。調査結果によると、月三〇〇万円以上の売上は必ず見込める。我々は、長年この商売をやっているから、この市場調査報告書はまず間違いのない見解である。馬橋店等の他の店では、我々の出した数値より二割から三割程度多い売上を上げている。本件店舗の場所は、千葉市内で残されている中では絶好の場所である。」等と言ったとうかがえる。原告代表者は、加盟の意思を固め、同日、並木酒店と本件店舗の賃貸借契約を締結した。なお、この際、被告は、原告に対し、「原告のような飲食店経営の経験者が失敗する例が多いから、このような商売を行う場合には、前の経験は忘れた方がいい。前の経験が商売を駄目にしてしまう可能性があるから、全く新しいことをやるつもりで、本部のいうとおりにした方が成功の道だ。」というようなアドバイスをした。

原告は、何度か本件店舗へ行ってみたり、主に小坂取締役が、右の被告から示された報告書等の内容について質問したりしたが、被告から、予想来店客数については「我々の経験からいって間違いない。」、人件費については「この商売は一日中忙しいのではなく、一定の忙しい時間だけ人数を多く必要とするが、かといって一時間だけでは雇うことができないから、ロスが多い商売である。」、その他の経費については「サービスを低下させずにいかにうまく原材料を仕入れてうまく捌くかは、当初はうまくできないが、営業を行っていくうちに適切な方針がみえてくるだろう。」等との説明を受けて納得し、被告の出した予測の数字を信頼することとした。また、原告代表者は、被告に対し、本件店舗周辺について「寂れた町」という印象を受けたことを述べ、その原因を尋ねたところ、被告は、「千葉はこんなもんだ。」と答えた。そして、原告代表者及び小坂取締役は、前記の市場調査報告書等を持ち帰り、検討した。

(9) 原告と被告は、三月一六日、被告事務所において、原告代表者、小坂取締役、染谷社長、稲井部長が出席して、本件契約を締結した。

本件加盟契約書(甲第一号証)には、次のような条項があった。

前文③【加盟の意思決定】本部は、加盟店が出店を希望する店舗所在地におけるほっかほっか亭ショップの経営の可能性について、その見込を立てるため、市場環境、競合関係、立地条件、消費動向等を調査し、その結果に基づく情報を加盟店に提供し、加盟店は、この情報に基づき、自主的に検討判断したうえ、本契約締結の意思決定をしたものである。その際、本部が加盟店に提示した売上、人件費率、原材料費率及び利益等の数値に関する資料・情報は、加盟店が本部の経営指導、助言に従い、経営に専念すればそのような成果をあげる可能性があるという予測値であって、同じ実績をあげることを保証するものではないことを加盟店は承知した。

第五条一項 本部が加盟店に賦与したフランチャイズは、店舗所在地の存在する周辺の一定地域における排他的・独占的権利ではない。

第六条一項 本部は、加盟店のショップの設営に際し、店舗の建設、店舗の設備、設営に関する指導援助を行うものとし、加盟店はこれに従う。

第一四条 本部は、加盟店に対し、従業員の採用基準、適性人数、募集方法、労務管理及び教育研修等について指導援助し、加盟店はこれに従う。

原告は、加盟契約書の内容が原告側にとって厳しいものと感じ、被告に尋ねたりしたが、被告側の自信に満ちた態度をみて、結局契約書中の文言の訂正を求めることはせず、契約書に調印した。

(10) その後の経過は、本項2及び四項において認定するとおりであり、結局、売上が伸びず、経営にゆきづまって、原告は、本件店舗を閉店した。

以上の事実が認められる。

(二)  契約締結段階における被告の義務の存否及び内容について

前記認定の事実及び甲第一号証に照らすと、本件契約を含め、一般にフランチャイズ契約とは、フランチャイズチェーンの本部機能を有する事業者(フランチャイザー)が、他の事業者(フランチャイジー)に対し、一定の地域内で、自己の商標、サービスマーク、トレードネームその他の営業の象徴となる標識及び経営のノウハウを用いて事業を行う権利を付与することを内容とする契約であると認められる。フランチャイズ契約においては、フランチャイザーにとってはフランチャイジーの資金や人材を利用して事業を拡大することができる点が、フランチャイジーにとっては、フランチャイザーの指導、援助を期待できる点が重要な要素となっている。。

ところで、本件契約書によると、前記のとおり、被告は加盟店が経営の可能性について見込みを立てるため、市場環境、立地条件等を調査し、その結果に基づく情報を加盟店に提供することとされているところ、フランチャイズシステムにおける出店の成否は立地条件に左右されることが多く、また、フランチャイズ契約に加盟しようとする者にとって、最大の関心事は、通常、加盟後にどの程度の収益を得ることができるかどうかの点であると考えられるから、契約を締結する段階において、フランチャイザーが加盟店となろうとする者に提供する当該立地条件における出店の可能性や売上予測等に関する情報は、加盟店となろうとする者が契約締結するかどうかを判断するための重要な資料となることが多い。しかも、フランチャイザーは、蓄積したノウハウ及び専門的知識を有し、それらを用いて市場調査等を行うものであるのに対し、加盟店となろうとする者はそのような知識を有しないことが多いから、フランチャイザーは、フランチャイズ契約を締結する段階において、加盟店となろうとする者に対してできる限り客観的かつ正確な情報を提供する信義則上の義務を負っているというべきであり、市場調査の内容等が客観性を欠き、加盟店となろうとする者にとってフランチャイズ契約締結に関する判断を誤らせるおそれが大きいものである場合には、フランチャイザーは、右信義則上の義務違反により、契約加盟者が被った損害を賠償する責任を負うべきものと解すべきである。

もっとも、フランチャイザーとフランチャイジーは、基本的にはそれぞれ独立した事業体であり、加盟店は独自の計算により経営を行うべきものであって、開業に際しフランチャイザーが提供する前記の調査結果に基づく情報についても、加盟しようとする者において自主的に検討した上で、フランチャイズ契約を締結するかどうかを決定すべきものと解される。

(三)  被告の前記義務違反の有無について

(1) そこで、本件において、被告の市場調査の内容等が客観性を欠き、原告にとって本件契約締結に関する判断を誤らせるおそれが大きいものであったかどうかを検討する。

① 基礎的データとなる数値の客観性

被告は、別紙のとおり、売上予測算出のための基礎的データとして、店舗前通行車両数、店舗前通行歩行者数、稲毛駅乗降客数、第一次商圏内世帯数及び人口、第一次商圏内事業所数、昼夜流入出率、推定市場占拠率等を算出しているが、これらのデータは、稲井部長の実地調査に基づく数値に公的データ等を合わせ加味して算出されたものである。すなわち、稲井部長は、店舗前通行車両数及び店舗前通行歩行者数については、弁当がよく売れる時間帯を昼夜一時間ずつ選び二日間にわたって本件店舗の前に立って計測した数値の平均値に公的な統計データを合わせ加味して算出し、稲毛駅乗降客数については、京成電鉄から発表された一日の乗降客数の平均値を用いて算出し、第一次商圏内世帯数及び人口については、最新の国勢調査に基づくデータを用いており、第一次商圏内事業所数については、実地調査の結果と千葉県の商業統計を合わせた数値から算出した。

これらの点にかんがみると、稲井部長の算出したデータは、一応の客観性を有するというべきである。

原告は、被告が設定した第一次商圏の中の事業所は個人経営による八百屋のようなものが多かったと主張する。しかし、個人経営の商店を事業所の中に加えることに特段不当性はないと考えられる。また、右事業所の中には個人経営の商店の他に銀行、生命保険会社等の支店、ガソリンスタンド、医院等も含まれていたこと及び前述のように被告はこの事業所数を基に来店客数を予測するに当たって一定の修正値を掛けていることからすると、そのことをもって一概に客観性を欠くということはできない。

② 本件店舗の第一次商圏の設定の妥当性

別紙の①エに摘示のとおり、被告は国道一四号線の北側を第一次商圏と設定した。これに対し、原告は、来店客の中には、車で買いに来る客が多かったこと、国道一四号線の南側部分から買いにくる客がいたこと、東京方面から営業のために通う途中に買っていくサラリーマンがいたこと等を挙げて、本件店舗はスタンドアローン的な店舗ではなくロードサイド的な店舗として位置づけ、広く国道一四号線の南側部分をも商圏として取り込むべきであり、被告の第一次商圏の設定には誤りがあったと主張する。

しかし、被告は、持ち帰り弁当店における売上等の予測に当たっては、まず確実に来店する範囲を捉らえることが必要であると考え、徒歩によって来店する客を第一次的に把握しようとしたものであって、このような考え方が不当であるとは断定しがたい。そして、被告が別紙の①エのとおりの考慮から、国道一四号線の北側部分の稲毛三丁目等の地域を第一次商圏と位置づけ、他方、国道一四号線の南側部分については、経営サイドの営業努力によって来客を誘引することが可能な第二次商圏と位置づけたことは、営業開始前における来客予測の前提として十分に合理的な考え方といえる(しかも、被告は、第二次商圏として位置づけた部分については、売上予測の算定のためのデータとしては算入しておらず、第一次商圏のデータのみを基礎として売上予測を算定しているのである。)。

③ 予想来店客数の算出

別紙の③のように、被告は、予想来店客数の算出について、第一次商圏内の住民と重複する可能性を考慮して、京成電鉄稲毛駅前の乗降客数及び店舗前通行歩行者数を考慮に入れずに、店前通行車両数、第一次商圏内の世帯数、人口及び事業所数を基に、それぞれについて被告独自の修正指数を掛け合わせて算出していること、また相互の重複を避けるための修正指数を掛け合わせていること、右各修正指数は、千葉県における経営実績がある被告のフランチャイズ既存店舗の売上実績、出店時の予測数値、来店客のアンケート調査等を基に、店舗の立地条件を加味して算出されたものであること、さらに、本件店舗の間口が被告の標準値よりも狭いことを考慮してそれらの合計数について0.9を掛けていること等からすると、その予測数値が客観性を欠くということはできない。

④ 一人当たりの平均購入額

千葉県全体の被告の既存店の実績からすると、当時の一人当たりの平均購入額は七二〇円であったが、被告は、開店から一年間は他の店と同じような購入額を取ることができるとは思われないとして一割マイナスして算出しているが、このような算出方法が客観性を欠くということはできない。

⑤ 売上予測、損益予測、損益予算表及び事業計画書について

被告は、既存店の実績、被告独自の標準比率を基にこれらの数値を算出しており、客観性を欠くということはできない。

なお、小坂陳述書(甲第一八号証)は、開店後の稲毛店の経営実績に照らすと、被告の損益予測ことに経費の予測が不正確であったことを指摘するところ、確かに予測と違った結果が出ているが、しかし、被告の経費の予測は、被告の店舗の実績に基づいて算出したものと認められ、単なる勘といったものではじき出したものではなく、予測値として客観性を欠くものとはいいにくい。

以上の検討から明らかなように、被告は、右各数値を算出するに当たって、稲井部長の実地調査に公的データを合わせ加味して一定の数値を算出し、さらにそれらを修正するための数値を何重にも掛け合わせることにより、予測値が過大なものとなることを防止しているといえる。したがって、被告が原告に提供した右各数値が客観性を欠くということはできない。

(2) なお、原告代表者は本人尋問において、被告の出した予測数値について、「被告の態度が確信に満ちていたから、予測数値を保証するというふうに捉えていた。」、「予測ではあるのでしょうけれども、これがあくまで予測でやってみなければ分からないと言われたなら多分やめていた。」等と供述し、また、小坂取締役も、その陳述書(甲第一八号証)において、これに類することを述べている。

しかし、被告が原告に提示した本件加盟契約書(甲第一号証)には「本部が加盟店に提示した売上、人件費率、原材料費率及び利益等の数値に関する資料・情報は、加盟店が本部の経営指導、助言に従い、経営に専念すればそのような成果をあげる可能性があるという予測値であって、同じ実績をあげることを保証するものではないことを加盟店は承知した。」と記載されているように(前文③【加盟の意思決定】)、被告が原告に提示した売上予測、予想来店客数等の数字は、その性格上、数字どおりの成果を上げうる可能性があるとの通常の意味での予測値であることは明らかであり、右認定のとおり、被告においてそのような実績を上げることを特別に保証した事実も認められない。

(3) 原告は、また、本件店舗の売上等の予測をあたかも間違いのない数字であるかのように原告に示して、本件契約を締結させたと主張し、原告代表者はその本人尋問において、数字について予測だということは一言も聞いていないとか、被告の出した予測数値を魔法にかけられたように信頼してしまったなどと供述している。

しかし、被告は昭和六三年三月一〇日に売上予測値等を原告に伝えるに際して「これは我々の過去に出店した店舗の実績に基づいて割り出した数値であって、努力すれば獲得可能な数値である。」と説明していること、原告代表者自身も本人尋問において「予測だとは思った。」、「数字がすべてでないことは分かっていた。」等供述していることからすると、原告は被告の出した数値が保証数値ではなく予測値であることを十分に認識していたといえる。

確かに、被告は三月一一日原告代表者らに「調査結果によると、月三〇〇万円以上の売上は必ず見込める。我々は、長年この商売をやっているから、この市場調査報告書はまず間違いのない見解である。馬橋店等他の店では我々の出した数値よりも二割から三割程度多い売上を上げている。」との趣旨の話をしたことがうかがわれる。しかし、他方で被告は「原告のような飲食店経営の経験者が、失敗する例が多い。」と述べて失敗例もあることを明らかにしていたことからすると、フランチャイズへの加盟を勧誘している被告がその相手方である原告に対して右の調査結果の確実性を確信するような表現を用いたとしても、それは、通常の商取引の範囲内の言動であり、予測の売上げを現実に保証したものではない。

さらに、原告代表者及び小坂取締役は、飲食店の経営についてはかなりの経験及び専門的知識を有していたと認められること、原告は、千葉市蘇我及び習志野市鷺沼の物件については、被告の調査結果をふまえて自ら店舗の開設に消極の判断を行ったこと、そして、本件店舗は原告の側で候補店舗として被告に提示したものであること、原告は、被告から市場調査報告書、損益予算表、事業計画書及び返済計画書を三月一一日に受け取り、それを持ち帰って同月一六日に本契約を締結するまでの間検討したこと、原告代表者らはその間実際に何度か本件店舗に足を運ぶとともに、被告に対し予想来店客数、人件費率、原価経費率等の根拠について質問しており、その都度の被告からの回答に納得していること、こうして原告代表者が本人尋問において供述するように同人自身も「やれる」と判断したものであること等の事情からすると、原告は、独立の事業体として自主的に本件店舗での営業が事業として成り立つと判断をしたというべきである。

(4) 以上の検討をふまえると、被告が提供した市場調査報告における各予測値等は、事実調査や被告のこれまでの営業実績を踏まえた客観性を持つものであり、原告にとって本件契約締結に関する判断を誤らせるおそれの大きいものであったということはできず、また、被告の市場調査結果の説明等も契約締結段階における信義則上の義務に反するものであったということはできない。

したがって、原告の主張は採用できない(なお、売上低迷の原因について、原告側は、元来本件店舗の立地条件は持ち帰り弁当店にとっては不利であって、経営努力によっても被告の出した売上予測値等を上げることは所詮不可能であったと主張するのに対し、被告側は、原告側の経営姿勢や経営努力の不足を問題とする。結局、本件の事実関係をしさいに検討しても、本件店舗の売上が被告の予測値に達しなかったことの原因を確定することは困難というほかはない。)。

2  契約履行過程における保護義務違反(請求原因3(二))について

(一)  保護義務の存在及び内容について

前記1において認定したように、本件契約において、被告は店舗の設営について指導援助を行うものとし、加盟店はこれに従うものとされているところ(第六条)、本件契約の内容及び前記1に記したフランチャイズシステムの特徴からすると、フランチャイザーは、フランチャイズ契約を締結した後においても、フランチャイジーの店舗の立地条件、営業状況等に応じて効率的な投下資本がなされるように、客観的かつ正確な情報を提供し、指導する義務を信義則上負っているというべきである。

そこで、以下において、被告が右義務に違反したかどうかについて検討する。

(二)  本件契約締結後の経過

甲第一五、第一八、第二三ないし第三〇号証、証人稲井潤の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 本件契約締結後、原告と被告は、昭和六三年三月一九日から、設計施工業者の株式会社丸杉店装の社員を交えて、本件店舗の設計について検討した。稲井部長は、在庫効率、作業効率及び来客の印象等からすると、持ち帰り弁当店の店舗としては一五坪が最も適した規模であると考えていたが、本件店舗は約一二坪でやや狭かったこと、及び本件店舗の入っている並木ビル自体が前面の道路に対しやや斜めに建っており、京成電鉄稲毛駅の方からはよく見えるが、反対方向からは見えにくくなっていたことから、原告に対し、右のマイナス要因をカバーするために、本件店舗に約一坪分余り(幅約0.83メートル)の張り出し部分を設け、その部分をガラス張りにすることによって、通行人や通行車両に本件店舗の存在をアピールするとともに、店舗内とくに客溜まり部分を明るくし、入店しやすく待ちやすい店舗とすることを提案した。

原告は、右提案についてそれなりの魅力を感じたものの、費用が増えること(なお、右費用について原告は一〇〇万円余りであるとするのに対し、被告は約三〇万円余りであるとしている。)、本件店舗前の道路は道幅が狭いため来店客の駐車用のスペースとして残した方がよいとも考えたことから、右提案を受け入れるかどうか迷い、被告と再度協議したが、被告が「ガラス部分を前に出して店を目立たせる方がよい。」と積極的に勧めるとともに被告の側で建物所有者の承諾を取り付けたので、原告も最終的に右の提案を了承した。そして、原告代表者及び小坂取締役は、右張り出しガラス部分の設計の打合せに立ち会い、プランニングと見積を検討した。

(2) 本件店舗の工事は、同年四月七日に着工されたが、同時に開店の準備も進められ、原告は、四月二二日、千葉中央保健所の店舗立入検査を経て営業認可を受け、同月二七日、小坂取締役を店長とし、他の従業員をアルバイトの形で雇って開店した。原告代表者と小坂取締役は、本件店舗を開業するにあたり、原告代表者が主に資金を出し、小坂取締役が人事、店舗管理等を担当するというように業務分担を決めた。

(3) 被告は、月一回スーパーバイジングという巡回指導を行うシステムをとっていたが、本件店舗の担当者として黒田スーパーバイザー(以下「黒田指導員」という。)を選任した。また、被告は、加盟店に対しキャンペーンマニュアルや情報連絡文書を配付し、オーナー会議(フランチャイズ加盟店のオーナーが集まる会議)等を主催するとともに、HMSという専用端末機を利用してデータ帳票類のフィードバックを行っていた。さらに、黒田指導員は、原告に対し、他の店がどのように経営しているか等についての情報を提供した。

(4) 原告は、アルバイトの人数について、被告から「サービスを低下させると売上に響くので、なるべく多い人数を雇った方がよい。」と言われたこと及び原告自身本件店舗だけではなく三店舗くらい経営したいと考えていたことから、多めに二〇名以上のアルバイトの従業員を雇った。本件店舗においては、アルバイトの従業員が炊飯をしたり惣菜を作ったりし、その管理を小坂取締役が担当していたが、開店後二、三週間すると、店内の作業が遅れる事態もみられ、また、小坂取締役だけでなく原告代表者も直接従業員に指示を出すために、従業員の間に混乱がみられるようになった。黒田指導員は、このような状況が営業上デメリットを生じていると判断し、原告代表者及び小坂取締役に対し、「双方から命令が出ると従業員がとまどうから小坂取締役主導体制をとるように」と指導した。

(5) 開店直後の昭和六三年五月の売上げは二六三万円で予測値二八八万円の91.3パーセントであった。稲井部長と黒田指導員は、同年六月二日、開店から一か月を経た段階での店舗の営業状況について協議するため、習志野市谷津の原告代表者宅を訪問した。右協議には、小坂取締役も同席した。協議のテーマは、売上が予測値に達していない現状の分析と当面の対策であった。稲井部長は、五月の売上が右のとおりであったことから、「一日の客数を一〇人増加させれば予測値に到達可能な状況である。」と述べた。

そのための具体的対策として、①統一キャンペーン用のちらしの集中配付、②駅頭におけるサービス券の配付、③商圏住民の生活パターンを把握するため商圏内を小坂取締役自身の足で歩くこと、④商店街の会合に加入し、出席すること(そのために家主の並木酒店に協力を依頼すること)、⑤付近にある不動産業者の店にサービス券を置かせてもらうこと、⑥銭湯にポスターを掲示させてもらうこと、⑦店舗の営業上必要なものはもちろん、原告代表者、小坂取締役の個人的な必要品もできる限り地元の商店街で買い、その機会を利用して地元とコミュニケーションを図ること等を指導した。

原告代表者らも右の指摘は当然のことと考えており、また、原告代表者なりに売上げを伸ばすために様々の方法を考え、買物のほとんどを本件店舗周辺の商店街ですませ、商店会にも入ろうとした。さらに、原告は、ちらしの配付、近所へのパンフレットの配付、サービス券の配付、宣伝広告等を行い、店舗内を清潔に保つように心掛け、接客態度の感じがよくなるようにアルバイトの従業員に注意をしたりした。

しかし、被告側は、原告の地域へ溶け込もうとする態度その他について、なお不十分なものを感じていた。

(6) 右昭和六三年五月頃、原告は、被告に対し、「経営上の観点から人件費の切り詰めをしたい。」と申し入れた。本件店舗の昭和六三年五月の人件費の経費率をみると、売上に対し二九パーセントと高い状態であった(当時の被告チェーン内の人件費率標準値は二〇パーセントであった。)。

しかし、被告は、本件店舗の労働力はまだ十分に教育されておらず、右の時点では、必要とされるサービスの最低レベルを確保するには一日当たり四五マンアワー(延べ労働時間のこと)以上必要な状況であると考えた。そこで、黒田指導員は、当面、人件費を切り詰めることには賛成できないこと、従業員の教育訓練を徹底し、戦力をアップすることが必要であること、そのためには率先垂範が必要であること等を伝えたため、原告は、従業員の労働時間をカットすることはしなかった。

しかし、その後も収益が好転しなかったので、原告は、昭和六三年九、一〇月頃から、原告代表者自身がアルバイトと同じ業務を担当し、一日一五時間働くことによりアルバイトの人数を減らし、人件費を当初の半分位に削減した。原告代表者と小坂取締役の給料はそれぞれ月二〇ないし二五万円位で、年収は三〇〇万円位であった。

(7) 昭和六三年六月には売上げが落ち込み、その後同年七月以降はやや回復したが、予測値に達せず、収益は好転しなかった。

原告代表者らは、本件店舗を探した頃から、周辺が寂しい町であるとの感じを抱いていたが、開店後しばらくすると本件店舗の周辺について、町並みが古く、老人が多くて夜にならないと若者がいないと感じ、「寂れた町」という印象を強くした。また、来客の中には、買い求める弁当を他人に見られないように風呂敷や紙袋を持って買いにくる者がいたことなどから、原告代表者は、本件店舗周辺の住民には保守的で排他的な考えを持っている人が多く、持ち帰り弁当店に対して新たな発想を呼び起こさなければならないと感じた。

なお、本件店舗の客には、国道一四号線の南側にあった千葉トヨペット等の店舗、千葉西警察署及び稲毛住宅展示場等の職員や、東京方面から営業のために車で通う途中に買っていくサラリーマンもおり、その他にも車で買いにくる客がいた。また、夜一一時まで営業している店が周辺になかったため、昼よりも夜の方が売れる程であった。

(8) 被告の売上予測では開業一年目から三年目にかけて売上が毎年増加することになっていたが、実際には増加せず、実際の売上が被告の予測値に到達した月は一度もなかった。もっとも、開店後から平成元年二月までの一〇か月間の各売上高をみると、開店直後の昭和六三年五月の売上は予測値の九一パーセントを示すなど、低い場合でも予測値の七〇パーセント以上を示しており、八〇パーセント以上を示した月が六か月、九〇パーセント以上を示した月が二か月あった。

被告はこうした状況をふまえ、売上げの低迷の原因について従業員の教育が適切でなかったこと、及び第一次商圏に対するピーアールや働きかけが不足していたこと等にあると考えていた。

(9) その後、原告が被告からの仕入代金を滞納するようになったので、被告は、原告に対し、何度となく経費の管理状況を明らかにするよう要請し、損益計算書の提示を求めた。しかし、原告は一度もこの要請に応じなかったため、被告は、原告の経営状況(赤字等)について正確に認識できなかった。

原告の仕入代金の支払は、当初から三、四か月遅れており、改善を申し入れると一部だけ入金されるという状況であったが、平成元年一二月末頃には、被告の原告に対する滞納債権が三〇〇万円を超過するようになり、それが固定化するようになった。稲井部長及び黒田指導員は、何度となく改善を申し入れ、なぜこのような事態に陥っているのか説明を求めたが、原告からの説明はなく、また、途中からこの問題に関しては原告代表者ではなく小坂取締役が対応するようになった。

平成二年二月末、被告の平成元年の決算期において、原告に対する債権の滞納状況が問題となり、右債権の保全に関する具体策が稲井部長に命じられた。そこで、稲井部長は小坂取締役との間で、平成二年二月三〇日付で当時未収となっていた三〇四万五九六四円の債権について、原被告間の金銭消費貸借契約を締結し、原告の売上から返済できる額を勘案して二〇か月均等分割払いとした。金利については、当時の被告の資金調達の場合の支払金利の条件及び二〇か月という長期回収計画のリスクを考慮して年7.5パーセントと決めた。

右返済計画は履行されたが、右返済期間中に新たに発生する支払債務が滞るという悪循環が平成四年の三月まで続いた。

(10) 平成二年一〇月頃、被告が未収となっていた原材料代金の支払を督促したところ、小坂取締役は、本件店舗を売却してその代金で支払いたい旨の表明をした。稲井部長は、小坂取締役に対し、店舗の売却については買取希望者がいれば紹介するが、店舗を売却し、本件契約を解約するためには債務を完済することが条件であり、店舗の売却代金で未払金を処理するのは筋違いであると述べた。さらに、稲井部長は、合意解約の条件として、①支払期限の利益を失うこと、②看板類を自己の責任において撤去することを告げた。

(11) 平成三年四月千葉市美浜区真砂一丁目に真砂店一号店が開店し、同年七月には真砂店二号店が開店し、さらに同年一二月千葉市美浜区高洲一丁目に高洲店が開店した。被告は、国道一四号線が稲毛区と美浜区の商圏を大きく分断していると分析しており、真砂店及び高洲店の商圏は、国道一四号線の南側のみであって、原告の稲毛店とは競合しないと考えていたので、右各店舗を開店させるにあたって原告の了解を得ることはしなかった。被告は、本件店舗の売上促進は、第一次商圏である国道一四号線の北側である稲毛一ないし三丁目、稲毛町五丁目、稲毛東二丁目、同五丁目の需要の掘り起こしに力を注ぐべきものと判断していた。

真砂店及び高洲店が開店する以前に国道一四号線の南側から本件店舗に来店していた客は、右各店舗が開業してから来店しなくなったとみられる。もっとも、真砂店一号店が開店した平成三年四月から本件店舗が閉店した平成四年四月の前月までの一一か月間の本件店舗の売上実績をみると、前年比において101.4パーセントの上昇を示していた。

(12) 原告は、収益が好転しなかったことから、前記のとおり人件費の削減に努めるとともに、昭和六三年中は年中無休で営業し、平成元年度は月に一回、平成二年度は月に二回の休日をとったものの、平成三年度は再び年中無休で営業した。

しかし、売上げは伸びなかった。被告の売上予測では、初年度よりも二年目、二年目より三年目と売上げが増加するものとされていたが、結局、売上げが予測値に達した月はなく、四項において検討するような経過をたどって閉店するに至った。

以上の事実が認められる。

(三)  これらの事実に基づいて、契約履行過程において被告に原告の主張する保護義務違反があったかどうかを検討する。

(1) 張り出しガラスの設置について

原告は、被告が張り出しガラスの設置を指導したが、これは極めて不適切であったと主張する。

前記(二)(7)に認定したように、本件店舗には車で来店する客が存在したことからすると、張り出しガラスのスペースを駐車用として利用することも有益と考えられるが、その広さからすると、車一台を駐車できたかどうかは疑問であり、他方、本件店舗が約一二坪で他の標準店舗より狭かったこと、並木ビルが道路に対して多少斜めに建っていて京成電鉄稲毛駅の方からはよく見えるが、反対の方からは見えにくかったこと等からすると、張り出しガラスの設置も本件店舗における営業方法の選択肢の一つであったというべきであり、張り出しガラスの設置が誤った指導であったということはできず、結果としても駐車スペースを残した場合よりも売上げを落としたとは断定できない。

また、確かに、前に認定した(二)(1)の事実からすると、被告が張り出しガラスの設置を提案しそれを原告に強く勧めたこと、張り出しガラスの設置について被告が自ら並木酒店との交渉に当たるなど積極的態度をとったこと及び原告は張り出しガラスを設置せずに来店客の駐車スペースとして利用した方がよいかどうか迷い、被告と再度協議したことが認められるが、しかし、最終的には原告が自らの決断により張り出しガラスを設置することを決定したものと認められる。

そうしてみると、この点に関する原告の主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

(2) 従業員経費について

原告は、被告が従業員経費を多めにかけるように指導し、原告はこれに従ったが、右は不適切であったと主張する。

前に認定した(二)(4)ないし(6)の事実からすると、本件店舗において開店当初の人件費率が高かったのは、被告がサービスを低下させると売上に響くのでなるべく多めにアルバイトの従業員を雇った方がよいと言ったことに基づくと認められるが、開店後販売体制が安定するまでの一定期間、従業員を多めに雇いサービスの低下が生じないように配慮することは誤りとは思われないこと、また、原告代表者がその本人尋問において供述するように、原告自身将来三店舗ほど他に展開したいと考えていたことから従業員をあえて多めに雇ったことからすると、この点に関する被告のアドバイスが客観性及び正確性を欠き、誤った指導であるということはできない。

その後、開店から一か月を経過した昭和六三年六月頃、原告から人件費の切り詰めをしたいとの申し入れがあった際に、被告は、本件店舗の労働力はまだ十分に教育されておらず、一日あたり四五マンアワー以上必要であると考え、人件費の切り詰めには賛成できず、教育訓練を徹底し、率先垂範が必要であると指示したことが認められる。しかし、前記(二)(4)において認定したように、本件店舗では開店後二、三週間を経過した時点で、店内の作業が遅れる事態も生じており、原告代表者と小坂取締役の双方から従業員に対し命令が出されたことにより混乱が生じていたこと、開店からわずか一か月余り経過したにすぎない時点においては、人件費を切り詰めずに教育訓練を徹底すべきであると判断することも一概に誤りということはできないと思われることからすると、その指示が直ちに客観性を欠き、誤っていたということはできない。

原告代表者は、その後も被告が人件費を削減してはならないと指導したかのごとく供述するが、稲井証言と照らし合わせてみると、右のように認定することは困難である(被告の作成した損益予算表(甲第七号証)における人件費の想定に照らしてみても、被告が多額の人件費支出を指導し続けたものとは認められない。)。

(四)  したがって、被告が契約履行過程において、客観的かつ正確でない情報を与え、指導を行ったということはできない。よって、この点に関する原告の請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

四  被告の買取約定違反(請求原因4)について

1  閉店前後の経過

甲第一〇号証の一、二、第一一ないし第一五、第一七、第一八号証、乙第一号証、証人稲井潤の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  平成三年一二月頃、原告は、本件店舗の閉店を決意し、被告にその旨連絡したところ、平成四年一月頃、黒田指導員に代わって本件店舗の担当指導員となっていた佐藤厳(以下「佐藤指導員」という。)が「あまり急いでやめないで、もう少し待ってほしい。転売先(加盟店を承継する者)を見つけることも可能だし、それが見つからないとしても本部が直営店として買い取ることも考えられる。」という趣旨のことを言い、また、佐藤指導員の側から被告が店舗を買い取る場合には一般に一か月の売上の1.5倍の代金で買い取るのが相場であるという話が出た。なお、原告は、その後の同年二月八日付で合意解約申請書を被告に提出していた。

そのうち、第三者から被告に対し、「既存店舗を買い取って加盟したいので、三月一八日に本件店舗を見たい。」という申入れがあった。そこで、被告は、佐藤指導員を通じて原告に対し、三月一八日までは営業を続けておくのが得策であるとアドバイスした。しかし、三月一八日、右第三者から本件店舗の買取りを見合わせたいとの回答があったので、被告は、三月一九日、佐藤指導員を通じて原告に対し、転売先を見つけられなかったことを告げた。その際、佐藤指導員は、被告が買い取ることもできないと告げた(原告代表者は、被告が買い取ることができない理由として、本件店舗は事業として成り立たないこと(この立地では伸びる予想がつかないこと)、人件費に見合わないこと及び将来性が全くないこと等を挙げたと供述するが、証人稲井は、被告が買い取ることができなかったのは、被告の内部的な経済的事情によるものであったと証言する。佐藤指導員が被告の予測の誤りをそのまま認めるようなことを言ったかどうかは疑問であり、右原告代表者の供述のように明確に認定することはできない。)。

(二)  原告は、右のとおり、平成四年二月八日、被告に合意解約申請書を提出し、「店舗設備だけでも第三者に売却したい。」と申し入れていたが、佐藤指導員は「そういうことなら、合意解約の手順を踏むことが必要である。」と説明した。しかし、原告は、被告に対する感情的反発もあって、合意解約の手続をする前の三月二三日に営業を停止した。そして、原告と被告は、三月三一日、本件契約を合意解約する旨の書面を取り交わし、その中で、①加盟契約に基づき使用を許諾された商標、サービスマーク等その他一切の標章の使用を同日以降中止し、同日まで右標章を表示した営業表示物を廃棄又は撤去する、②原告の被告に対する一切の支払債務を四月一五日までに完済する、③原告の各指定業者に対する支払債務を四月一五日までに完済する、④三月三一日から一年間競業しないこと等を約した。しかし、原告が右の①及び②の条件を履行しなかったので、被告は、原告代表者に対し、即時に履行するように要求したところ、原告代表者は、被告に対し損害賠償請求をする予定であり、債務はその請求額の担保として支払わずにおくと告げた。そこで、被告は、原告に対し、四月二八日付で、右の四条項は合意解約の前提条件であるから、合意解約書は無効であると通知し、その結果原告は本件契約第三三条に抵触することになり、一〇日以内に履行しなければ、改めて契約解除の扱いとなると告げた。その後、原告から何の連絡もなかったため、被告は、五月一五日、原告に対し、加盟契約解除の対象となることを内容証明郵便によって通知した。原告は、五月二八日、未払債務の履行をした。

2  原告は、被告が本件店舗の転売先を見つけるか、あるいは、一か月の売上げの1.5倍の代金で買い取るかの二者択一の意思表示をしたと主張する。

確かに、右1に認定したように、平成四年一月頃、原告と佐藤指導員との間で、被告が転売先を見つける、あるいは、本部が直営店として買い取ることも考えられるというような話が出たものと認められる。しかし、そもそも被告は加盟店が撤退した店舗を直営店にすることは原則として行わない方針であり、被告が本件店舗を買い取るかどうかを一応検討したのも右一月以降のことであることからすると、同年一月頃の原告からの閉店の申入れに対して、被告が転売先を見つけるか、あるいは、それが見つからない場合は買い取る旨の確定的意思表示をしたことは考えられない。佐藤指導員が述べたのは、被告が加盟店を承継する転売先を見つける努力をする、あるいは、転売先が見つからなかった場合は本部が直営店として買い取ることを検討するという意味であったと認めるのが相当であり、原告の主張するような二者択一の意思表示であったとは認めることはできない(なお、原被告間において本件店舗の買取りに関する合意書その他の書面は作成されていない。)。

したがって、原告の買取約定の成立を前提とする請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

五  結論

以上において検討したところから明らかなように、本件請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岩井俊 裁判官鎌田豊彦 裁判官細矢郁)

別紙被告による市場調査結果及び損益予測

① 売上予測算出のための基礎的データ(甲第六号証)

ア 店舗前通行車両八七六台

本件店舗前の道路を通過する車両(自転車を除く)の一時間当たりの調査台数であり、稲井部長が、昼(午後一二時から一時まで)と夜(午後六時から七時まで)一時間ずつ二日間にわたって本件店舗の前に立って計測した台数の平均値に公的な統計数値(国道一四号線から本件店舗へ入る道路の入口からJR総武線の稲毛駅を通過する所までについての数値)を加味した数値である。

イ 店舗前通行歩行者数一六三人

本件店舗前の道路を通過する徒歩による通行者と自転車による通行者の合計人数であり、稲井部長が、右のアと同様の時間帯に同様の方法で計測した人数の平均値である。

ウ 稲毛駅乗降客数九九七三人

京成電鉄から発表された京成電鉄稲毛駅の一日の乗降客の平均値である。

エ 第一次商圏内世帯数二九一二世帯及び人口八一六三人

日常的に来店してもらえると思われる商圏内の世帯数及び人口である。

第一次商圏とは、売上予測を計算する場合において、その基礎的なデータの対象となる来店頻度を見込むことができる商圏のことである。第一次商圏の設定は、通常、徒歩で来店しやすい距離、地勢上の起伏、交通の便等を考慮して決めるが、本件店舗については、稲井部長が実際に本件店舗の周辺を歩いた上で、右各要素を考慮して設定をした。その範囲は、本件店舗を中心として直径約五〇〇メートルの範囲で、京成電鉄線の北側にまたがるが、南は国道一四号線までの地域であり、具体的には本文に記載したとおりであり、稲毛一、二、三丁目、稲毛町五丁目の一部、稲毛東二、五丁目等であった。

なお、世帯数及び人口について稲井部長が参考とした資料は昭和五八年度及び昭和六一年度の国勢調査に基づく数値であったが、昭和六三年三月の本件調査の時点においては、昭和六一年度の数値が最新のものであった。

オ 第一次商圏内事業所数一四二箇所

第一次商圏と設定したエリア内にある事業所数であり、稲井部長が実際に歩いてチェックした数値と千葉県の商業統計から得た数値とを合わせて調べた数値である。本件において対象となる事業としては、銀行、生命保険会社、ガソリンスタンド、医院、一般の個人商店等が存在した。

カ 昼夜流入出率一〇〇パーセント

通勤や通学等の状況を考慮し、実質的な昼夜の流出、流入の比率を表した数値である。

キ 第一次商圏内における推定市場占拠率

稲毛町五丁目を除く地域 一〇〇パーセント

稲毛町五丁目 四〇パーセント

これは、各地域の世帯数、人口を対象として、店舗からの距離、地勢、交通状況等を考慮して日常的に客を誘引することができ、マーケットとして見込むことができるかどうかという割合を示したものである。

② 本件店舗の立地条件(甲第六号証)

被告は、本件店舗周辺の地域は、京成電鉄稲毛駅を中心とした商店街とそれを取り巻いている古くからの住宅街から成る町であると特徴付けた。そして、本件店舗の北側付近に京成電鉄が通っているが、住民は、踏切を使って相互に往来をしているため、右京成電鉄の線路によって商圏は分断されていないと判断した。他方、本件店舗の南側付近には国道一四号線が通っており、右国道一四号線によって北側部分と南側部分は分断されていると判断し、本件店舗の第一次商圏となるのは、国道一四号線の北側部分であり、南側部分からは、徒歩によって日常的に来店することを見込むことは困難と思われたことから、経営サイドの営業努力によって来客を誘引することが可能な地域(第二次商圏)として位置付けた(売上予測の算定にあたっては、右の第二次商圏は考慮に入れなかった。)。また、稲井部長は、本件店舗付近の道路の数箇所に立ち、通行者の動きをチェックすることにより、京成電鉄稲毛駅の乗降客や商店街の買物客の回遊性が高いと判断した。

また、立地条件として他に考慮する事情としては、道路がカーブしているかどうか、店舗の建っている場所がその外側か内側か、街路樹があるかどうか、看板を目立つ位置に出せるかどうか、フリースタンディング(一戸建て)の建物か集合マンションの建物かどうか等があるが、被告は、これらも考慮した上、本件店舗については、商圏内での競合店が比較的少ないこと、京成電鉄稲毛駅から近い位置にあることから、売上予測の算定にあたって大きくマイナスとなるような材料はないと判断した。

③ 来店客数(甲第六号証)

被告は、来店客数を一日当たり154.8人と予測した。その算定方法は次のとおりである。

基礎となるのは、前記①の基礎的データのうち通行車両数、第一次商圏内の世帯数、人口数、事業所数で、主としてこの四項目によって来店客数を割り出した。

通行車両数から割り出す方法は、前記の八七六台という一時間あたりの数値に営業時間(一六時間)を掛け合わせ、前記の調査時間が比較的通行量の多い時間帯であったことからそれを修正するための修正指数として0.6を掛け、さらに被告独自の指数である0.005を掛け、さらに第一次商圏内の住民が車両によって来店することを考慮し、その重複を避けるための修正指数として0.9を掛けたものである。

次に、商圏内の世帯数から割り出す方法は、商圏内の世帯数に推定市場占拠率を掛け、さらに被告独自の指数である0.038を掛けたものであり、人口数から割り出す方法は、商圏内の世帯数に推定市場占拠率を掛けたものである。そして、右の二つの要素は、要因として重複する部分があるので、これらを足して二で割った。

さらに、事業所数から割り出す方法は、事業所数一四二に平均的な従業員の数一〇を掛け、さらに被告独自の指数である0.02を掛けたものである。

以上の各項目の合計数を算出し、さらに、本件店舗については、間口が被告の標準値よりも狭いことを考慮して右合計数に0.9を掛け、それによって算出された数値である一日当たり154.8名を来店客数として見込んだ。

以上において用いた被告独自の各指数は、千葉県においてこれまでに出店した既存店の売上実績、出店時の予測数値、来店客に対するアンケート調査等をもとに立地環境ごとに設定したものであり、外房、内房の海岸部、内陸部にあるかどうか及び住宅街にある店かロードサイド店か等によってそれぞれ異なっていた。

なお、京成稲毛駅の乗降客数及び通行歩行者数は、本件店舗の店の前をどの位の人数が通行するかどうかを判定するために調査した数値であるが、第一次商圏内の住民と重複する可能性があるため、右の来店客数の算定方法においては考慮に入れなかった。

④ 一人当たりの平均購入額六五〇円(甲第八号証)

千葉県全体の既存店の実績から割り出したものであり、当時の実際の平均値は七二〇円位だったが、開店から一年間は他の店と同じ購入額を得ることが難しいことから、一割マイナスして算出した。

⑤ 売上予測(甲第六号証)

初年度 三五九四万円(平均月商約三〇〇万円)

第二年度 三九五三万四〇〇〇円(同約三三〇万円)

第三年度 四一五〇万九〇〇〇円(同約三四六万円)

既存店の出店後の実績から、二年目の売上は一年目の売上に一割上乗せして一〇パーセントの成長率とし、三年目は五パーセントの成長率として予測した。

⑥ 損益予測(甲第六号証)

損益予測は、各年度の売上予測値に被告独自の標準的な経費率を掛けて予測したものである。

⑦ 損益予算表(甲第七号証)

甲第六号証の損益予測を月別に作成し直したものであるが、損益は季節の要因によって変動するので千葉県全体の既存店の過去三年間の実績から割り出した被告独自の標準的指数を掛けて算出したものである。

⑧ 事業計画書(甲第八号証)

予定される投下資本、経費率、売上予測を基礎にして、事業がどのような形になるのかという概要を示したものである。

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